- 2023 年度の日本の食品ロスは 464 万トン、事業系のうち 食品卸売業は 10 万トン (事業系の 4%) (農林水産省・環境省 2025 年公表)。「3 分の 1 ルール」が温存される中、卸の現場では先入先出 (FIFO) を紙伝票と棚卸し票で支えている。
- 令和 7 年 10 月時点で 377 食品小売事業者 が納品期限緩和に動いたが (農水省)、卸側の在庫運用がアナログのままだと、緩和の効果を取りこぼす。
- 解決は 新しい WMS の導入ではなく、既存のロット番号・入庫日メモを画面に書き写すだけ。業務手順への変更を最小限に抑えながら、賞味期限が近いロットの「警告と先出し指示」が画面に出るようになる。
「3 分の 1 ルールがあるから、納品 1 ヶ月前には出荷しなきゃならない。でも棚から古いロットを先に出すのは、結局現場の目視に任せている」── 食品卸の倉庫責任者から、こうした実情をよく伺います。FIFO (先入先出) の原則自体は誰でも知っているのに、現場で徹底できない構造的な理由があります。
この記事では、最新の食品ロス統計でその構造を確認した上で、業務手順への変更を最小限に抑えながら FIFO を仕組み化する実践的な方法を解説します。
数字で見る、食品卸の食品ロスと賞味期限
- 2023 年度の食品ロス総量: 464 万トン。家庭系 233 万トン + 事業系 231 万トン。前年度比 ▲ 8 万トン (農林水産省 2025 年公表)。
- 食品卸売業の食品ロス: 約 10 万トン (事業系の 4%)。製造業 (164 万トン / 71%) や小売業 (47 万トン / 20%) と比べると相対的に小さいが、業界別では 外食産業に次ぐ規模感 (環境省 令和 5 年度発生量推計)。
- 3 分の 1 ルール: 賞味期間の 1/3 以内 に小売へ納品する商慣習。賞味期限が 6 ヶ月の商品は、製造後 2 ヶ月以内に納品しないと、卸の在庫として残ったまま行き場を失う (農林水産省 商慣習検討)。
- 納品期限緩和の進捗: 令和 7 年 10 月時点で 377 食品小売事業者 (前年度比 +38) が納品期限を緩和または緩和予定 (農水省)。卸の在庫運用が追従できれば、廃棄ロス削減と取引機会拡大の両立が可能。
これらの数字が示すのは、卸売業の食品ロス削減は 「仕組みのある現場では既に効いている、ない現場では効いていない」 という二極化構造です。FIFO 運用の徹底度が、そのまま廃棄率と粗利率に表れます。
業種別シナリオ ── FIFO が回らない理由
シナリオ 1: 加工食品卸 (調味料・乾物・冷凍食品など)
賞味期間が長い (6 ヶ月〜2 年)。倉庫に 同じ商品でロット (製造日) が 3〜5 種類混在 することが常態化。棚は同じ番地にまとめて積み上げるため、古いロットが奥に押し込まれて目視確認しにくい。「新ロットの納品時に古いロットを手前に出す」のが原則だが、忙しい日は飛ばされる。月次の棚卸しで初めて「3 ヶ月前のロットがまだ 5 ケース残っている」と発覚するパターン。
シナリオ 2: 日配品卸 (パン・乳製品・チルド惣菜)
賞味期間が 1〜7 日と非常に短く、毎日全在庫の動きを把握する必要がある。FIFO 自体は徹底されているが、「明日 1 日売り切りたい在庫が何 kg / どの取引先向け」を 朝の便を出す前に手書きメモで確認 する運用が主流。Excel に書き写すのは月末の集計時のみで、日次の判断は紙頼り。
シナリオ 3: 冷凍冷蔵食品卸 (水産加工・冷凍野菜)
賞味期間は中間 (1〜6 ヶ月) だが、解凍 = 賞味期限の再リセット が起きる。一旦解凍された商品は、消費期限が数日単位に短縮されるため、ロット管理が複雑化。「解凍ロット」「再凍結ロット」のような状態管理が、紙伝票では追えなくなる。
解決の核 ── ロット番号と入庫順を画面に書き写す
食品卸の FIFO を仕組み化する最大のポイントは、WMS (倉庫管理システム) を新規導入することではなく、現状の棚と動きを画面に書き写す ことです。
画面側では:
- 入庫履歴 (商品 + ロット番号 + 入庫日 + 数量 + 賞味期限) を伝票通りに記録
- 「同じ商品の中で賞味期限が古いロット」を画面上で 1 件目に表示 (= 先に出す指示)
- 納品書を作る際、画面が推奨ロットを提示 (現場担当者は確認 / 変更可能)
- 賞味期限まで X 日以内のロット をアラート表示 (例: 残り 30 日でアラート、3 分の 1 ルール準拠で運用しやすい)
この設計のポイントは 「現場の判断を奪わない」 ことです。画面が「推奨」を出すだけで、最終判断は現場担当者が下す。新人でも経験者と同じ判断ができ、経験者は今までの勘で動ける。
既製品で足りない理由
- 既製の WMS は固定ロケーション前提: 食品卸では同じ商品が複数の棚に分散することが日常。固定ロケーション運用は中小卸の現場と合わない。
- ロット管理が「あるかないか」の二択: 既製品の多くは「ロット管理 ON / OFF」の設定。ON にすると全商品でロット入力が必須になり、現場負担が爆増する。現実的には「賞味期限が短い 30 商品だけロット管理したい」ニーズが多いが、既製品では設定できない。
- 賞味期限アラートの粒度が荒い: 既製品の多くは「賞味期限切れ」しか警告しない。「3 分の 1 ルール準拠で残り 1/3 期間になった時点で警告」のような業界ルールに合わせた閾値設定が難しい。
取り組み方の 3 ステップ
- 対象商品の絞り込み (1 営業日): 全アイテムからではなく、賞味期限が短い (90 日以内) または廃棄損失の大きい 20〜50 商品 に絞る。「全部やる」が頓挫の原因。
- 入庫データの画面化 (2〜4 週間): 入庫伝票の数字を画面に写すだけの軽量画面を作成。現場担当者は今までの伝票を見ながら入力するだけで FIFO の土台が整う。
- 納品時の推奨ロット表示 (1〜2 ヶ月): 出荷指示画面に「このロットを先に出してください」の推奨を表示。現場の動きが変わるところまで進める。
まとめ
食品卸の食品ロス削減は、年間 10 万トンが業界共通の課題。3 分の 1 ルールは取引慣行の中で温存される一方、小売側の納品期限緩和が進んでいる今、卸の在庫運用が紙のままだと、せっかくの緩和効果を取りこぼす 状況に直面します。新しい WMS を導入するのではなく、既存のロット番号と入庫日メモを画面に書き写すだけで、FIFO 推奨と賞味期限アラートが現場に届く ── これが、業務手順への変更を最小限に抑えた現実解です。
引用元
- 農林水産省「事業系食品ロス量 (2023 年推計値)」(2025 年 6 月 27 日発表) — maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/250627.html
- 環境省「我が国の食品ロスの発生量の推計値 (令和 5 年度)」 — env.go.jp/press/press_00002.html
- 農林水産省「食品ロス削減に向けた商慣習検討 (3 分の 1 ルール)」 — maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_3.html
- 農林水産省「納品期限の緩和を進める事業者が大幅に増加 (令和 7 年 10 月時点 377 事業者)」 — maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/221102_17.html
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