この記事の要点
  • 食品表示法に基づく自主回収の届出は年間 1,745 件、根本原因の約 8 割がラベルの誤入力・貼り間違い (消費者庁)。「表示ミス」の裏側には、原材料とロットのひも付け不足が隠れているケースが多い。
  • ロット番号は振っているのに、入荷ロットと加工後ロットのひも付けが切れている中小食品卸では、事故発生時に対象範囲を絞り込めず、関係のない商品まで広範囲に自主回収する事態が起きる。
  • 解決は新しいトレーサビリティシステムの導入ではなく、今ある入荷伝票・加工日報のロット番号をそのまま使い、「入荷 → 加工 → 出荷」のひも付けだけを画面に集約する段階的アプローチ。

「ロット番号は入荷伝票にも加工日報にも書いてあるんです。でも、いざ問い合わせが来た時に、どの入荷分がどの出荷先に渡ったのか、伝票をひっくり返してもすぐには繋がらなくて」── 中小の食品卸・食品加工業の経営者から、こうした話を伺うことが珍しくありません。ロット管理そのものは長年やってきたつもりでも、それが「事故が起きた時に遡れる」形になっているかどうかは、平時には気づかれないまま放置されがちです。

この記事では、食品リコール・自主回収の最新統計で業界の現状を確認した上で、中小食品卸でロット管理・内部トレーサビリティが属人化する典型パターンと、既存の帳票や入力習慣を変えずに「遡れる」状態を段階的につくる着手順序を解説します。

数字で見る、食品リコールとロット管理・トレーサビリティの現状

これらの数字が示すのは、食品リコールの多くが「異物混入」のような偶発的な事故ではなく、表示とロットのひも付けという地味な管理業務の破綻から起きているという現実です。ロット番号を振ること自体はどの現場でもやっていても、「入荷 → 加工 → 出荷」の各段階でひも付けが途切れていれば、いざという時に対象範囲を絞り込めません。制度で全業種に義務化されているわけではないからこそ、備えの差がそのまま事故対応の差になります。

業種別シナリオ ── ロット管理が甘いと事故対応で何が起きるか

以下は複数のご相談を再構成した代表シナリオであり、実際の顧客企業や個別の事案を指すものではありません。

シナリオ 1: 食肉卸 (仕入先・部位別のロットが加工で混ざる)

複数の仕入先から仕入れた枝肉を、その日のうちに部位ごとに加工して出荷する食肉卸。入荷伝票にはロット番号があるが、加工の過程で複数ロットの原料が同じ加工台・同じ出荷ケースに混ざる。ある仕入先の商品に懸念が出た際、「その日出荷した商品全部」を回収対象にせざるを得ず、問題のない他ロットの商品まで広く止まってしまう。

シナリオ 2: 食品加工業 (原材料切替時にアレルゲン情報がひも付かない)

惣菜・加工食品を製造する中小加工業者。原材料の仕入先を切り替えた際、新しいロットのアレルゲン情報が加工日報に反映されず、切替のタイミングと製造ロットの対応関係が担当者の記憶頼みになっていた。表示の誤りに気づいた時、「いつのロットから新しい原材料に切り替わったか」を特定するのに時間がかかる。

シナリオ 3: 青果卸 (産地切替と検査結果のひも付けが属人化)

複数産地から仕入れる青果卸。産地ごとの残留農薬検査結果や入荷日は紙の帳票で管理しているが、どの検査結果がどの出荷分に対応するかは担当者の頭の中にしかない。担当者不在時に問い合わせが来ると、対応できる人がおらず社内で確認作業が滞る。

解決の核 ── 既存の記録を残したまま「遡れる」状態をつくる

中小食品卸のロット管理・トレーサビリティ強化で最初にやるべきことは、新しいロット管理システムを導入することではありません。今ある入荷伝票・加工日報・出荷伝票に、すでにロット番号や入荷日は書かれています。足りないのは新しい記録項目ではなく、「入荷 → 加工 → 出荷」の間のひも付けです。

具体的には:

このアプローチは、現場の入力手順を変えずに、判断材料の見え方だけを画面に集約する「現場を変えない開発」の考え方と一致します。平時の追加負担を最小限にしながら、有事に必要な検索性能だけを先に用意しておく発想です。

既製品で足りない理由

取り組み方の 3 ステップ

  1. 現状観察 (2〜4 週間): 今使っている入荷伝票・加工日報・出荷伝票を集め、ロット番号や入荷日がどこまで書かれているか、どこでひも付けが切れているかを洗い出す。
  2. 追跡画面の追加 (4〜8 週間): 入力方法や伝票フォーマットは変えず、既存の伝票に書かれた情報を画面に転記して「入荷 → 加工 → 出荷」を一覧で遡れる画面を追加する。逆引き検索 (出荷先 → 使用ロット) を優先して用意する。
  3. 回収訓練と記録の定着 (継続): 実際に模擬回収訓練を行い、画面上でどこまで絞り込みにかかる時間を短縮できたかを確認する。記入漏れが起きやすい箇所には画面側でアラートを出し、記録の抜けを日常的に拾う。

まとめ

ロット管理とトレーサビリティの強化は、システムの新規導入や記録項目の追加という「足す」発想では続きません。中小食品卸の現場にはすでに入荷伝票・加工日報・出荷伝票という形でロットの情報が存在しています。本質的な課題は、それらの間の「ひも付け」が事故対応に耐えられる形になっているかという 1 点です。平時の入力負担を増やさず、有事に必要な逆引き検索だけを先に用意しておく ── この順序が、突発的な自主回収が発生した時に、対象範囲を必要以上に広げず、現場の混乱を最小限に抑える備えになります。

引用元

「事故が起きた時に、うちはどこまで遡れるのか分からない」段階のご相談を歓迎しています

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「ロット番号は振っているが入荷から出荷までつながっていない」「事故対応の訓練をしたことがない」「担当者しか回収範囲を判断できない」段階で大丈夫です。

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