- DX に「取り組んでいる」中小企業は 15.5%、課題の 47.4% が「対応できる人材がいない」(帝国データバンク 2022 年調査)。人材で解決できない以上、進め方の設計で補うしかない。
- 松竹梅プランを「梅は機能が少ない、松は全部入り」という 機能の量の違い だと誤解して選ぶと、補助金の対象要件や営業トークに引きずられ、現場の優先順位とズレた機能に予算を使ってしまう。
- 解決の方向性は「今回変える業務」と「今回はまだ変えない業務」の境界線を先に決めること。機能を増やす前に、変える順番を決める。
初回のご相談で「うちは松竹梅で言うとどれくらいの規模にすればいいですか」と聞かれることが珍しくありません。多くの経営者が松竹梅プランを「機能の数」の違いだと考えていて、梅プランは機能が少なくて安い、松プランは全部入りで高い、という理解をされています。しかし現場で実際に機能する松竹梅プランは、機能の量の違いではなく「今回変える業務」と「今回はまだ変えない業務」の境界線をどこに引くかという設計の違いです。
この記事では、中小企業の DX 着手状況を示す最新の統計を確認した上で、松竹梅プランを機能量ではなく変える順番として設計する考え方と、補助金・既製品との付き合い方、実際に取り組む際の 3 ステップを解説します。
数字で見る、中小卸のシステム投資と松竹梅プランの現状
- DX に「取り組んでいる」企業: 15.5% (2022 年 9 月時点、調査対象 2 万 6,494 社・有効回答 1 万 1,621 社)。取り組み上の課題は「対応できる人材がいない」47.4%、「必要なスキルやノウハウがない」43.6% が上位 (帝国データバンク「DX 推進に関する企業の意識調査」2022 年 9 月)。
- 基幹系システムの老朽化: 2025 年時点で 21 年以上稼働するシステムが全体の約 6 割を占める見込みで、IT 予算の多くが新しい価値創出ではなく既存システムの維持に使われる構造にあると経済産業省が指摘 (経済産業省「DX レポート」2018 年 9 月 7 日)。
- IT 投資を行わない理由: 最も多い回答は「導入できる人材がいない」で全体の 4 割 (2021 年版 中小企業白書 第 2 節 中小企業におけるデジタル化に向けた現状)。
- 補助金の上限額は機能数で連動: 「デジタル化・AI 導入補助金 2026」の通常枠は、業務プロセス 1〜3 で 5 万〜150 万円、4 つ以上かつ会計・受発注・決済のうち 2 機能以上で 350 万円 まで申請可能。補助率は 1/2 以内 (一部 2/3 以内) (中小機構「デジタル化・AI 導入補助金 2026」通常枠)。
これらの数字が示すのは、中小卸の多くが DX に未着手で、着手できない理由が「人がいない」ことに集約される点です。同時に、補助金の上限額は対象機能の数に連動する設計のため、「対象になる機能を全部入れる」判断をすると、最初から松プランを選んでしまいがちです。しかし松竹梅の本来の役割は「予算に応じた機能の量」ではなく、「業務のどこを先に変え、どこを後回しにするか」の優先順位設計にあります。
業種別シナリオ ── 松竹梅プランでつまずく典型パターン
以下は複数のご相談を再構成した代表シナリオであり、実在の特定企業を指すものではありません。
シナリオ 1: 精肉卸 (補助金の対象要件に合わせて松プランを一括導入)
「デジタル化・AI 導入補助金」の対象になる受発注・請求書発行の機能に合わせて、松プラン (全機能) を一括導入することを決めた精肉卸のケース。実際に現場が毎日困っていたのは部位別の歩留まり差異が見えないことだけだったが、補助金の対象要件に引きずられて受発注・請求書機能まで同時に入れてしまい、現場が使いこなせる前に機能の半分が使われないまま残っている。
シナリオ 2: 青果卸 (竹プランで在庫と受発注をまとめて選定)
竹プランで在庫管理と受発注をまとめて選定した青果卸のケース。営業担当とのヒアリングだけで機能を決めたため、実際の優先課題だった棚卸差異の見える化と機能選定がズレてしまい、稼働後に「思っていたのと違う」という改修依頼が現場責任者から続いている。
シナリオ 3: 食品卸 (梅プランで始めたが伸ばせる設計になっていない)
梅プランで最小限の機能に絞って始めた食品卸のケース。竹・松に伸ばす前提の設計をしていなかったため、半年後に取引先別の単価管理機能を追加したいと依頼したところ、画面もデータ構造も作り直しに近い改修費用がかかることが分かった。
解決の核 ── 松竹梅は「機能の量」ではなく「変える順番」の設計
松竹梅プランを機能の量ではなく、「変える順番」の設計 として捉え直すと、次のようになります。
- 梅: 最初に変える業務を 1 つだけ選ぶ。入力経路は変えず、既存の Excel や紙の数字を画面で「見える化」するところから始める。
- 竹: 梅が現場に定着したのを見てから、実務データの入力経路の一部を画面側に移す。
- 松: 竹が定着した後、複数拠点・複数取引先など対象範囲を広げる。
重要なのは、梅の段階から竹・松へ伸ばせる設計にしておくことです。画面の見た目は最小限でも、データ構造や項目設計を最初から拡張前提にしておけば、後から機能を足すときに作り直しが発生しません。既存の運用を変えずに判断材料の見え方だけを画面で共有する ── 「現場を変えない開発」の思想は、松竹梅プランの設計にもそのまま当てはまります。
既製品で足りない理由
- グレード分けが「機能数」の違いでしかない: パッケージ製品の松竹梅は価格帯と機能数の違いであり、「業務を変える順番」という発想自体がない。
- 補助金の対象要件に機能選定が引きずられる: 会計・受発注・決済など対象要件を満たす機能を優先すると、現場の実際の優先順位とズレた選定になりやすい。
- 梅から竹・松へ伸ばす設計になっていない: 小さく始めても、後から機能を追加するたびに画面やデータ構造の作り直しに近いコストがかかる。
- 松竹梅の判断が現場ヒアリングに基づいていない: 営業トークとして提示されるだけで、実際に現場の誰が何に困っているかの調査を経ていないことが多い。
取り組み方の 3 ステップ
- ステップ 1 (2〜4 週間): 業務フロー全体を洗い出し、現場が一番困っている「判断のボトルネック」がどこかを特定する。ここが梅プランの中身になる。
- ステップ 2 (1〜2 ヶ月): 梅プランを設計・実装する。最小の画面で 1 つの業務だけを変え、入力ではなく可視化から始める。竹・松に伸ばせるデータ構造を最初から用意しておく。
- ステップ 3 (3 ヶ月〜): 梅プランが現場に定着したのを見てから、次に広げる業務範囲 (竹・松) を判断する。補助金の申請枠を検討するのもこのタイミング。
まとめ
松竹梅プランの本質は、機能の量でも価格帯でもなく、「どこから変えて、どこはまだ変えないか」という優先順位の設計にあります。補助金の上限額や対象要件に引きずられて松プランを一括導入するのではなく、現場の困り事から逆算して梅から始め、定着を見てから竹・松へ広げる。この順序が、機能を持て余す導入と、現場に定着する導入を分けます。
引用元
- 帝国データバンク「DX 推進に関する企業の意識調査」(2022 年 9 月) — tdb.co.jp/report/economic/nm9fmb4ph-h9/
- 経済産業省「DX レポート ~IT システム『2025 年の崖』の克服と DX の本格的な展開~」(2018 年 9 月 7 日) — meti.go.jp/policy/it_policy/dx/20180907_02.pdf
- 中小企業庁「2021 年版 中小企業白書 第 2 節 中小企業におけるデジタル化に向けた現状」— chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/chusho/b2_2_2.html
- 中小機構「デジタル化・AI 導入補助金 2026」通常枠 — it-shien.smrj.go.jp/applicant/subsidy/normal/
最初の 60〜90 分のヒアリングから、整理メモと画面ラフ・松竹梅プランのお渡しまで、費用は発生しません。 「補助金の対象要件に合わせて機能を決めてしまいそう」「竹プランで選んだが現場の優先順位とズレていた」「梅プランで小さく始めた後、どう広げるか分からない」段階で大丈夫です。