この記事の要点
  • 運輸部門の CO2 排出量は日本全体の 19.3% (2024 年度、国土交通省)。2026 年 4 月施行の改正物流効率化法で、年間取扱貨物量 9 万トン以上の「特定荷主」には中長期計画の提出が義務化された。
  • 取引先からサプライチェーンの排出量計測・カーボンニュートラルへの協力を要請された中小企業の割合は、2023 年の 8.5% から 2024 年には 12.0% へ増加 (中小企業庁 中小企業白書)。大手荷主・大手小売との取引がある中小卸にも、要請が及び始めている。
  • 解決の出発点は、配送ルートや仕入れ・運送会社との契約はそのまま残し、既存の配送記録から「聞かれたら答えられる」排出量の見える化画面をまず作ること。設備投資や補助金活用の判断はその後でよい。

「大手の取引先から『御社からの仕入れに伴う CO2 排出量を教えてほしい』というアンケートが届いたが、配送は複数の運送会社に任せていて、そんな数字は持っていない」── 中小卸の経営者や物流担当者から、こうした話を伺うことが珍しくありません。GX (グリーン・トランスフォーメーション) や脱炭素は、これまで大企業や特定荷主だけの話だと思われがちでしたが、サプライチェーンを通じて中小卸にも静かに要請が及び始めています。

この記事では、物流分野の GX・脱炭素対応をめぐる最新の制度と統計を確認したうえで、中小卸に実際にどのような要請が届き始めているか、そして配送や仕入れの運用を大きく変えずに「答えられる状態」をつくる着手順序を解説します。

数字で見る、物流GXと中小卸の脱炭素対応の現状

これらの数字が示すのは、物流 GX は「特定荷主だけの制度対応」から「取引先を通じて中小卸にも及ぶ実務」へと変わりつつあるということです。中長期計画の提出義務そのものは大手荷主が中心でも、取引先アンケートや調達条件を通じて、9 万トン基準に届かない中小卸にも「答える」場面が増えています。

業種別シナリオ ── 荷主からの脱炭素要請が届く典型的な場面

以下は複数のご相談を再構成した代表シナリオであり、実顧客情報ではありません。

シナリオ 1: 食品卸 (大手小売との取引)

取引先の大手小売から、サプライチェーン全体の CO2 排出量に関するアンケートが届いた。配送は複数の運送会社に委託しており、便数や距離のデータはあるものの、燃料使用量や排出量として集計したことがない。担当者が個別に運送会社へ問い合わせて回答をまとめるだけで数日かかる。

シナリオ 2: 青果卸 (卸売市場経由の取引)

大手量販店の調達部門から「GX への取り組み状況」を尋ねる調査票が届くようになった。ホワイト物流や物流効率化法という言葉は聞いたことがあるが、自社が対象になるのか、何を答えればよいのかが分からず、調査票が机の上に放置されがちになる。

シナリオ 3: 飲料卸・地域卸 (自社倉庫を保有)

倉庫の太陽光発電や EV フォークリフト導入に使える補助金があると聞き、申請を検討し始めた。しかし補助金の申請書類には現状の CO2 排出量 (ベースライン) の記載が求められ、そもそも自社が今どれくらい排出しているかを把握していないため、申請の一歩目で止まってしまう。

解決の核 ── 配送を変えずに「答えられる」状態をつくる

物流 GX への対応で最初につまずくのは、「配送ルートや運送会社との契約を変えなければいけない」という思い込みです。実際に多くの中小卸にまず必要なのは、投資や運用変更ではなく、既に持っているデータから排出量を「答えられる」状態をつくることです。

「現場を変えない開発」のアプローチでは、配送ルート・積載方法・委託先との契約は現状のまま残し、便数・走行距離・積載量・燃料使用量など、既存の配送記録や燃料伝票に眠っている情報を画面に集約します。グリーン物流パートナーシップ会議が公開している共通の算定ガイドラインに沿って、簡易的な CO2 排出量の推計値を出せる状態にすることが最初の目標です。

この段階を経ておくと、取引先からアンケートが届いた際にすぐ回答でき、補助金申請時のベースライン算定にもそのまま使えます。設備投資や共同配送への転換は、排出量が見える状態になってから、投資対効果を判断すればよいことです。

既製品で足りない理由

取り組み方の 3 ステップ

  1. 現状観察 (1 ヶ月): 配送便数・委託運送会社との契約内容・燃料使用量が分かる伝票を洗い出す。取引先から実際にどのような排出量関連の質問が来ているかも合わせて確認する。
  2. 見える化画面の追加 (2〜3 ヶ月): 配送ルートや運用は変えず、既存の配送記録・燃料伝票から簡易的な CO2 排出量の推計値を画面に集約する。取引先からのアンケートにその場で回答できる状態を目指す。
  3. 段階的な脱炭素投資の検討 (3〜12 ヶ月): 排出量が見える状態になった段階で、EV 車両・太陽光発電・共同配送といった投資判断や、地域物流脱炭素化促進事業などの補助金申請を検討する。

まとめ

物流 GX への対応の本質は、配送ルートや運送会社との契約を大きく変えることではなく、取引先や補助金申請から排出量を聞かれたときに、既存のデータからすぐ答えられる状態をつくることにあります。改正物流効率化法の直接の対象にならない中小卸であっても、大手取引先を通じた要請は今後さらに増えていくと見られます。配送の運用を変える前に、まず「見える化」から着手することが、遠回りに見えて最短の準備になります。

引用元

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